「一樹くん大丈夫だよね?」
「はい」
「信頼してるよ」
店長は期待してくれてるみたいだった。
最近僕は店長によく誉められる。それも春野さんからもらったカメラやポチが来てからの変化だと店長は言う。
店長は店の奥へと向かうと一度だけ止まり、振り向いた。
「君の笑顔はまだ見たことないけど前よりは本当に感情のレパートリーが増えたように感じるよ。無理にはいいからいつか君の笑顔を見せてくれ」
そう言って再び前を向いて店の奥へと消えた。
「笑顔、、、」
僕自身でも思っていた。気付いていた。
少しずつ感情を取り戻していることを。
何かを見て何かを感じる
当たり前のことだが僕にとって当たり前ではなかった。
僕の話し相手はずっと僕だった。
ただ黙々と生きていた。
ポチは話すことはできないけどなんらかのアクションをくれる。
この猫のお陰で僕は失われた存在を今取り戻している。
ただ、どうしても笑うことだけができなかった。
僕の表情筋は笑い方を忘れていた。