黒い塊を僕はいじっていた。
大砲のように太いレンズ。
店長のあの言葉がなかったら僕はもらっていなかったと思う。
店長とも会話を多くはしない。
でも今僕の中ではこの店長が一番に頻繁に顔を合わせていて害はないと思っている。
カメラに触りながら考えていた
何より名前を呼んでくれる人に出会ったのは何年ぶりだろうか。
僕はずっと「ポチ」と言われていた。
僕自身がもう僕の名前を「ポチ」と認識していたのかもしれない。
名前を教えた覚えはなかった。
あるとすれば働かせてもらうときに簡単に書いた名前と電話番号だけの履歴書。
それを見て覚えたのか。
店長は初日から僕のことを一樹くんと名前で呼んだ。
馴れない名前で僕は自分の名前なのに自分じゃない気がした。
ただ、名前を呼ばれたそのときに僕の胸が高鳴って、そして痛んだ。
不思議な感情だった。