少し書類を地面に擦りながら僕は国道への一本道へ向けて走った。
少し道の端で休んで再び走る。
一本道に出てからはいっきに走らなければいけない。
書類をくわえて走る猫。
おそらく周りの人が見たらかなり不思議だ。
サザエさんに出てくる「お魚くわえたどら猫」よりも遥かに稀で不思議な猫だろう。
だから興味を向けられないように走らなければならない。
長い直線だがそれなりに人がいる。
そう考えてるうちに国道への一本道にでてしまった。
少しのだけ急になってる坂道。
先に小さく見える国道への信号。
よし。
僕は猫特有の後ろ足をふみなおし、ふみふみをして、助走をつける。
しゅぱっ
走り出した。
いっきに抜ける。
猫は瞬間最高時速は時速60㎞にもなるらしい。
それをまさか生身で体験するときが来るとは。
流れる景色が格段にはやい。
猫ってすごいな。
とどけなくては。
時間がない。
少し前にいる小学生くらいの子供に指をさされた。
「ママ!あの猫何かくわえて走ってるよ!みてみて!!」
「あら、ご主人様にお届けものかしらね。かわいいわね!」
あはは。そんなことはフィクションの世界だけの話とわかっていて冗談まじりでお母さんは子供に返している。
それが実は今本当に起きてるんだけどな。
頭の片隅でそう返事をした。
急に僕の目の前に大きな壁が見えた。
おっと。
今度は小学校高学年くらいのやんちゃそうな男の子。
ああ、わかる。
なんだろうな、この、何か良くないことというか、都合の悪いことが起きる前の変な余地能力は。急に勘が鋭くなる。
絶対当たるという、予感。
やめてくれ。
男の子はこっちを見て言った。
「何くわえてるの?おれにも見せてよ!」
僕のくわえてる書類に手をかけようとした。
くそ。
男の子の足の間を抜けようか、いや、書類がぶつかるか?
そんなことを考えていたら、一瞬判断が鈍った。
僕は男の子の左側を抜けた。
危ない。
男の子の手が書類をかすった。
「ちょっと、待てよー!!」
男の子が追ってきて。
嘘だろ。マジかよ。
単純に考えて人間と比べて猫の方がスピードはある。だから大丈夫。
なのだが、サイズの違いがやけに怖い。
子供相手でも猫と比べたら十分にでかいのだ。
人間でいえば空からの魔神や巨人が走って追いかけてくる感覚だと思う。
僕は人間だったからそういう感覚も無駄に働く。
こんなにも大きく感じるとやはり怖い。
坂の3分の2まできただろうか。
まだ、追いかけてくる。
「おい!僕にも見せろよ!」
くそ。疲れてきた。
猫は持久力には自信があるわけではないらしい。
やばい、、追い付かれる。
男の子の足音が近い。
だだだだだだだだだ。
地面に重い振動が伝わる。
だめだ。