2010年 2月12日 母が死んだ。


それは急だった。心筋梗塞だった。






僕にとっては母だし母じゃない。"本当"の母は僕が9歳の頃に過労で倒れてそのまま帰らぬ人となったのだ。


7歳の頃、両親は父の酒癖の悪さから離婚し、僕は母に引き取られ女手一つで育ててもらった。


父とはそれから連絡が一切取れなくなった。

父との思い出なんて無い。
いつも帰りは遅く、酒に酔っては暴れ殴る、蹴る。


幼いながらこんな親、本やドラマ意外に本当にいるんだなと思っていた。


笑っている顔は見たことあるだろうか。まだ小さな脳の奥の片隅にある引き出しの中を探すかのように必死に思い出してみた。


出てきたのは酒を飲み始めて10分くらいのまだ暴れる前の楽しそうな微酔いで少し赤らんだ顔だけだった。


そんな父を僕の"本当の母"は捨て、僕を連れて家を出た。






まだ冬の雪の降る中だった。傷だらけ、痣だらけの母の手は僕の手首を折れそうなくらい強く握り、肩に落ちた雪が溶けて体に染み込み、あの日の僕の心を芯から貫いた。

2月3日