「女性らしき方が出てこられました」
あの店員は、片手にスピーカーフォンを持って5m離れてる車から出てきた。
「…バックしますか?」
「後ろに車いr…あぁ、なるほど。突っ込むツーわけ?」
「本当は安全運転で行きたい所ですが、今回は非常事態。
…修理代が目に浮かびます。」
「んなの、親父が払う。」
「…申しわけないです。」
「まぁいいや、非常事態なら電話すればすぐに来てくれそうだしよ。
とりま、アイツが何するか待ってようぜ。」
「危険です、早く逃げたほうが」
「無理、親父うっせぇし。なんなら、隆と一緒に逃げて、いや、逃げろ。」
「…………断ります。隆様だけはお逃げください。」
隆は首を横に振り、「んなことより、前見ろ、前!」と言った。
気づけば店員がタクシーの上に乗って、こっちを見下ろすように見ていた。
そして、ゆっくり車が動き出す。
バランスをとるように店員は手をふらふらさせた。
じりじり、と迫る距離。
と、思いきや3m先で止まった。
「なんなんだ、アイツ。」
「さあ、何がしたいんでしょうか…。」
片手のスピーカフォンを口元に寄せて、何か言っている。
でも、防音室で何も聞こえないので窓を少し開ける。
『…うか?一等のお客様はおられますでしょうか?』
と、言う。
『いらっしゃったら、こちらまで…』
店員の顔をよくみると、視線が合いニヤリと口元が緩む店員にゾクりと肩がすくんだ。
『いらっしゃいましたか♪一等のお客様。』
見つかった、って感じだ。
いや、前から見つかってるけど、本当に見つけられたような。
これが、隠れ鬼という遊びなら今見つけられてタッチされないように逃げているところだな。
『一等のお客様、お車から出てきてください。』
出てきたら鬼にタッチされんじゃねーか。
『ご連絡があるのです。』
…連絡?なんなんだよ。
いつまでも、こんな長々しい時間は過ごしたくねぇ。
鬼を逆にやっつける、そんな反則ルールもありだろ?
「俺、行ってくる」
「勇太様!?なりません、」
「おい、勇太!」
運転手に、隆も、止める。
ドアに手をかけ、開けた。
外に出ると、道がスレスレで人一人しかいれない程度の狭さ。
両サイドに田んぼがあるから、草の香りがツン、と鼻に入った。
「あっつー。」
『一等のお客様、こちらへ。』
「お前が来いよ。」
『いえ、こちらにいらっしゃってください。』
「無理。」
『チッ』
「舌打ちかよ」
『早く来なさい、うっとしいわ。』
「さっきとはえらい差だな、おい。」
『めんどくさいのよ、さあ、早く来い。』
「むーりー。」
『うっざいわね、仕方ないわ。』
「なにが?」
『あなたの車潰して良いのかしら?
あなたの、お友達に、運転手。ふふっ』
「くそ…」
『さあ、早く来い』
俺は、店員を睨みながら前へ進む。
「勇太様!!行ってはなりません、早くお乗りください。」
運転手が車から叫ぶ。
「乗る?お前らが潰され…。
チッ、俺馬鹿だよなー。わかった、乗るよ。」
『あら?なにをしてるのかしら?』
「潰されるのはあんたの車だよ。」
そういい、乗ると勢いよく前に進むリムジン。
そう、俺らが進めばいい話。
『なっ、馬鹿ね!』
店員は車に勢い良く乗り込んだ。
ガンッ!!!
車と車がぶつかり合って、音が響く。
咄嗟の衝撃に前に体が動き、必死に耐えた。
「シートベルトをご着用ください!」
運転手の言葉に、俺と隆はつけた。
ガンッ、ガンっ!
と、ぶつけあう、
そして、後ろの車も加わって前、後ろと体が激しく揺らされた。
「っ、勇太様!今すぐ警察に!」
と、運転手。
前の車はかなり損傷しているが後ろの車にダメージが与えられ続けている。
もしかしたら、負けるかもしれない。と思ったんだろう。
「あぁ、わかった。東城に電話してもらう。」
何度かのコールで、出ると
「勇太だ!今すぐ警察に連絡してくれ。
リムジンが前後にぶつけられている。道は俺のGPSを使え!」
「執事の日田です、ご承知いたしました。」
プツ、と切る。
「…な、なあ、勇太!田んぼに落ちねぇか?!」
隆が叫ぶ。
よく見ると、斜めっている。
一旦、止まり勢いよく進むリムジン。
前のタクシーにガツンッとあたり、後ろの車の衝撃が伝わり、前のタクシーは飛ぶように田んぼに落下した。
「おっ!すげぇ!」
俺はつい。叫んだ
そして、すぐに前進した。
後ろのタクシーからのダメージから逃げなければ。
キィィイイイ
ガンッ
ガンッ
でも、相変わらずタクシーはぶち当たって来る。
キィィイイイイ!ガンッ!
急に止まり、タクシーが突っ込んでバウンドされるタクシー。
その間に逃げる。


