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“ ありがとう ”
花が咲いたような笑顔でそう言った蜂谷は、もう二度と履くことの出来ないであろう上履きを拾い上げ、それを無造作に近くにあったゴミ箱へと落とした。
そして振り向いた蜂谷はやっぱり、相変わらず緩い笑顔を俺へと向けていて。
その笑顔を見ていたら、何故だが無性に胸の奥が締め付けられたんだ。
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「ねぇ、ちょっといいかしら」
――― 朝。潤と二人で学校に着くなり聞こえてきた声は、もう嫌というほど聞いたことのある声で、それだけで心には憂鬱の塊が落ちてきた。
「えー、朝からお前の取り巻きに絡まれるの、しんどい」
「……うるさい。俺だって、面倒くさい。大体にして、お前がモタモタ仕度してるから遅れたんだろ」
言いながら潤を睨めば、ごめんごめんと適当な返事を返される。
そんな潤を横目で捉えつつも朝から憂鬱に苛まれる原因は、俺に何度も何度もしつこく言い寄ってくる女の声が耳に届いたからだった。
……今朝も、待ち伏せされてるのか。
だけど、そんな風に思わず身構えた俺と潤の目に飛び込んできたのは、俺にしつこく付き纏う女とその取り巻きたち、そして――――
「あなた、日下部くんのことを好きでいて、私たちのことを知らないわけないわよね?」
昨日話したばかりの、蜂谷の姿だった。



