「……“ そんなの ”なんて。相手がどれだけそれに悩んでいるかも……わからないくせに?」
「っ、」
「本人は悩んで悩んで、それでも自分ではどうしようもできなくて……現実を飲み込むことに、精一杯なんだ」
「く、日下部くん……?」
「他人の悩みは、自分のモノサシでは計れない。計ろうとすること自体……間違ってる」
夜の澄んだ空気に、通る声。
辺りの喧騒に臆することなく紡がれた言葉は、驚くほど鮮明に、私の耳と心に届いた。
日下部くんに繋がれた手に、思わず力が篭ってしまう。
その温もりに気付いたらしい日下部くんは、一瞬だけ視線を私に落としたあと、とても柔らかな笑みを浮かべた。
「……っ、」
……どうして。
どうして、日下部くんが私の心の声を汲(く)んでくれるの?
たった今、ここに来たばかりで、話の全容も把握できていないはずなのに。
それなのに、どうして。
どうして私の想いに――――声に、気付いてくれたの?



