そんな、日常の些細なことからも人の良さが滲み出ていて、今だって本当に申し訳ないと思っているのか握られた拳は……小さく震えていた。
「蜂谷さんのこと……困らせちゃって、ごめん」
……高橋くんは、本当に良い人だよね。
悲しそうに笑ったその笑顔を見て、心の中でそう呟いた瞬間、強張っていた肩から力が抜けた。
私に背を向け、人混みに消えていった日下部くんと白坂さんの姿は紺色に染まった夜に紛れて、もう見えない。
例えば、今から二人のことを追い掛けたって、白坂さんとの約束を破りに行くだけだし、やっぱりお邪魔虫になるだけだろう。
それに、本当に付き合っているわけではない、偽彼女の私が日下部くんを追い掛ける理由なんてない。
……だとしたら。
もし、花火を見るだけで、目の前にいる高橋くんの気持ちが報われるというのなら……
私に残った選択肢は、一つだけだ。
「……一緒に、花火、見よっか?」
「え……、」
「ここまで来たし、せっかくだから。夏の思い出に……花火、見て行こ?」
言いながら微笑めば、高橋くんもまた嬉しそうに笑ってくれた。



