「……ぬるい、カルピス」



日下部くんの姿が見えなくなってからも、ぼんやりとその背中の残像を追い掛けていた私の手の中に収まるカルピス。


それは、いつからポケットにしまわれていたのか。


スッカリ冷たさは無くなっていて、お世辞にも今すぐここで、飲みたくなるものとは言えなかったけれど。


ゆっくり、ストローを刺してから口に含めば、口いっぱいに広がったのは、ほどよく甘酸っぱい香り。


それは、今まで飲んだカルピスの中でも一番美味しかった。



「……ありがと、日下部くん」



今更ながら口にしたお礼は、日下部くんに届くはずもない。


それでも、胸に溢れた優しい気持ちを表す言葉は他になくて、空になったカルピスを持ちながら思わず笑ってしまった私は……


日下部くんの言う通り、やっぱり、変な奴なんだと思った。