玄関を出ると、暖かい日差しがあたしを照らしてた。
「うーっし!今日も1日元気にいくかー!」
ガチャ
あたしが気合いを入れて、伸びをしているときに隣のお家のドアが開いて真美さんがお弁当箱を持って出てきた。
「あ、瑠衣おはよう」
「真美さん、おっはー!それどしたの?」
「それが、一樹と和也、お弁当忘れちゃって〜…」
うわ、この流れ。
嫌な予感するよ。
「瑠衣、渡してくれない?お願い!」
ほらきた。
「真美さん、あたし、暇じゃないんだよ。うん。」
「えー!じゃあ渡してくれたら…バイト代あげちゃう!!」
「え、まじ?」
「おおまじよ!きちんとバイト代出すし、ケーキも作ってあげちゃう!!」
それは、乗るしかない。
「その約束覚えておいてね?任せろい!」
真美さんから2つのわりと大きいお弁当箱を受け取ると真美さんがにっこりした。
「よろしくね、いってらっしゃい」
「いってきー!」
真美さんは朝が苦手みたいで、2人の朝練の時間に間に合わなくてお弁当を渡しそびれちゃう。
そのたんびにあたしが2人に届けるんだけど、朝練終わった野球部がいる部室に届けんのは案外勇気がいって。
最初のときは、あたしが作ってんのかと野球部員に疑われた。
今じゃ、旦那はどっちにするんだとか言われてからかわれるから正直いって行きたくない。
でも、真美さんの作ってくれるケーキはめっちゃうまい!!
それにバイト代まで出るならやるしかない。
いつも通り、ポケットに入ってるiPodのイヤホンをつけて音楽を聴いて、電車で5つ先の駅まで電車に乗る。
あたしにはいつも定位置というものがあって、1番端の席に座る。
そして、あたしの席の前にはいつもその人の定位置の他校の野球部がいる。
坊主でエナメルバッグに焼けた肌。
少し童顔で、いつも寝ている。
あたしが乗る前から乗っていて、あたしよりもあとに降りる。
その人を見るのが日課だったりする。
電車を降りると歩いて10分くらいのところにあるのがあたしの通ってる南西高校。
南?西?どっち?って思ったこともあったけど、案外嫌いじゃない。
学校にもうすぐ着くというとき、背中にバッグが当たった。
「おっはよーん!!」
「痛いなあ、もう少し優しくしてよ」
「ごめんごめん、低血糖だなあ、朝は瑠衣ちん不機嫌〜」
「美優が、元気すぎんの」
「てか、なにそのお弁当箱2個」
「真美さんに頼まれた」
「あちゃー、今日も野球部にバカにされるよ(笑)」
「そーだよ、最悪だよ」
美優はテンションがいつでも高い。
いつもニコニコしてる。
それに性格もいい。
2人でいるとあたしのほうが気が強い。
あたしよりも一歩後ろを歩くような古き良き時代の女ってやつ?
だから男にはモテる。
本人は、本命がいるからそんなの相手してないんだけどね。
2人でお喋りして、校門まで行くと
「うっわ!生徒指導の先生じゃん」
「あー、ほんとだー。怒られちゃう」
「裏口からいこ」
「美優いいや〜、裏口行ったら野球部の部室目の前であたしまでからかわれるのごめんだし〜?(笑)」
「裏切るのか?お?」
「クラス分け見とくから〜」
それだけいうと、そそくさとクラス分けの紙が貼られてる中庭に向かって歩いて行った。
「いくか〜…」
裏口着いて、開けてもそこにはだれもいなかった。
「あれ?」
時間を確かめると終わる時間までまだあった。
「うーん。暇だし、見に行くか!」
あたしはグラウンドに着いて、日陰の水道の前に座って、野球部を見た。
野球部は朝練をしてて
パパと一樹と和也がいた。
パパも、一樹も和也も部員全員が集中して、かっこよく見えた。
あたしも見入って夢中になってた。
そして、いきなりあたしの頬に冷たいなにかが当たった。
「ひゃあ!!」
横を見ると
「一樹。」
一樹が汗だくなまま立って、ペットボトルをあたしの頬に当ててた。
「お前、夢中になりすぎ。春だとしてももう暑いんだぞ。熱中症にでもなられたら困るんだよ」
そう言って、一樹はペットボトルをあたしに差し出した。
「うるさいなあ。別に一樹見てたわけじゃないし!!」
フンっとペットボトルを乱暴に受け取って、ごくごく飲んだ。
「いや、俺だろ?」
「ごめん、全く見てない。」
「なんだよ、素直じゃねーの」
「べーっだ!!」
あたしは思いっきり舌を出して、睨んだ。
「お前、俺に用あんじゃねーの?」
「あ!お弁当!真美さんに頼まれた!はい」
バッグの中からお弁当を一つ取り出して一樹に差し出すと、不服そうな顔をした。
「ん?なに?早く受け取ってよ、あたしクラス分け見なきゃいけないんだから」
「お前って本当色気ねーよな」
そういうと、乱暴にあたしからお弁当を取った。
「あん?あたしだってね、おっぱいも出てるし、お色気ムンムンだっつーの!」
「今日の夜、俺らの家来いよ」
「は?なんでよ、あたし今日バイトなんだけど」
「お前がみたいって言ってた映画、ダチに借りたんだよ」
「え!みるみるみます」
「じゃあ来いよ」
「あいあいさー」
そして、あたしは敬礼をして急いで中庭に向かった。
「あ!和也のまだ渡してなかった〜。まあ、あとで教室行けばいいか」
ダッシュで中庭に向かうと、美優があたしに気付いて大声で呼んできた。
「るーい!!同じー!!」
はあ、良かった。
駆け寄ると、美優が満面の笑顔でピースをしてきた。
それより!!
「あ、アイツは?」
「アイツ?」
「一樹だよ一樹!!」
「それは、自分で見て来なさい!」
ドンッと背中を押されて、張り出されてる紙を見ると
3年C組
相川一樹 木村瑠衣
「え…」
これって。
これって。
「さいっあく!!!」
うーわ。
しかも、名前順隣?
おかしくない?
木村の前なんでいないの?
毎年同じクラスだったけど、名前順隣は初めて。
木村と相川だからいつも近かったけど、並ぶのは初めて。
「最悪すぎでしょ」
「瑠衣、見た〜?」
「うん、最悪」
「まあー、これも運命なんだよ。12年目。楽しんでこ。」
「はあー…」
なぜ、こんなにも嫌なのか。
それは昔からあることが起こるからだ。
小学生、中学生、高校2年生まで、
あたしは一樹に勝ったことがない。
勉強もいつも学年1位に一樹はいる。
あたしはめっちゃ頑張っても5.6位。
運動神経は一樹は抜群。
あたしは、女子の中では短距離も長距離も1位だけど、タイムでは一樹にぼろ負け。
それで小学生のときに1度、負けたときにあたしが一樹に言った言葉がある。
”男と女違うもん!”
そしたら一樹は
”負け犬の遠吠えだな”
そう言って嘲笑った。
それから負けるたんびにクラスでバカにされ、笑われて。
だから、高校生活最後くらい穏やかに過ごしたかったーーっ!!

