「そっか。なんなんだろうな。でも兄貴は瑠衣ねえ以外のことであんま怒らねえからなあ…」




んん?

ちょっと待って。


朝から巻き戻そう。
朝イチの電車から幸希と仲良くなって〜
体育はいつも通りメイク怒られながら受けたし、授業は美優と恋バナしながら受けたし、放課後?


うっわ。

あたし、見たじゃん。

あたしが急に慌て始めたのが和也が気づいたのかあたしを見た。


「瑠衣ねえ?」

「ごめん、和也。あたしだ。」

「え?まじ?」

「うわー。忘れてた〜。放課後、ゴミ捨て行こうとしたら、ごみ捨て場で一樹が莉子ちゃんて子に告白されてたの!それを覗いてないんだけど、覗いてるみたいになっちゃって…」

「うわ、まじか」

「それで、莉子ちゃんのこと振ってたんだけどね?なんか、”ごめん、俺、好きなやついんだよね”って言ってて、それあたし聞いちゃって、一樹にバレちゃったの!」


あたしが話してる間、和也はだんだん顔をしかめていた。


「瑠衣ねえ、それは兄貴怒るよ」

「えーなんで?勝手に聞いたのは悪いと思うよ?でもわざとじゃないし」

「まあ、そうだけどさあ…」

「だいたい、あんな可愛い子に告白されてんのになんで断るかな?莉子ちゃんって学年で1番可愛いって言われてんだよ?あんなチャンス一樹には2度と回ってこないよ?」

「そういう問題じゃないんだと思うけど…」

「ん?なに?」

ガチャ

和也とあたしが話してた時、ドアが開いた。

「兄貴。」

一樹は部屋に入るなり、無言で自分の勉強机の椅子に座った。


勉強机は、左から夢、和也、あたし、一樹って並んでるからいま、あたしは自分の机の椅子に座っていて、嫌でも一樹と隣になった。


こちらを見ようともしない一樹にあたしはカチンときた。


「なに?なんでそんな怒ってるわけ?聞いてたのは悪いと思う。ごめん。でもそんな怒ることなくない?」

あたしは結構強めに言った。


あたしが言うと、一樹は持っていたペンを止めてこちらをギロリと睨んだ。


「お前、本当ブスだよな」

「は?」

「化粧も濃すぎてバケモノみたいだし、性格くそわりいし、おまけにめたくそ気が強い。そりゃ、前田の方が何倍も可愛いよな。」


なんだ、こいつ。

「なにその言い方!!一樹だって、かっこよくないくせに野球が出来るからって少しモテちゃってさ。鼻の下伸ばしてデレデレしてんじゃねーよ」


あたしは気づいたら怒鳴ってた。

和也があたしたちをなだめようとしてたけどそんなの目にも入らなくて。


「一樹なんかだいっきらい。」


この一言で、全てが終わる。

「勝手にしろよ!!人の気持ちも考えねーで。」

それだけ言うと一樹は乱暴にドアを閉めて出て行った。


なんだよ、なんだよなんだよ。


そりゃ莉子ちゃんの方が可愛いけどさ!
あんなボロクソ言わなくてよくない?


「瑠衣ねえ、」

「ん?」

「まだ、わかってねえの?」


和也にそう言われたけど、ぜんぜんわからなかった。


「なにが?」

「ううん、なんでもない。俺ももう今日は自分家帰るわ」

和也も出て行ってしまった。


2人してなんだよ。


あたしは、普通に仲良くしたいのに
いつも上手くいかない。


自分でいうのもなんだけど、あたしと一樹は似てると思う。


お互い気が強い。

お互い頑固。

お互い負けず嫌い。

お互い言いたいことはなにも言えない。





こんなあたしたちの高校3年の6月だった。




もうそろ暑い暑い夏がやってくる。