「向井 未咲都!起きろ!」
彼の声とは違って心地が悪い声が私の名前を呼んだ。
「また、お前寝てるのか?眠り姫だな、眠り姫!」
生物教師の沼田。生徒はみんなセクハラ教師と呼んでいる
わたし、向井未咲都は地元の高校の2年だ。
沼田が言う通り私は授業の大半を寝て過ごす。
眠り姫はあながち間違いではない。
「向井は平常点やばいからな〜
次のテストが楽しみだ。がっはっは」
沼田の笑い声が寝起きの頭には響く。
「未咲都、また寝てたの?
沼田の授業落としたらやばいよ?」
笹木裕里 小学校からの私の親友だ
「沼田の授業より自分でやった方理解できるからさ、寝てもいいかなあって(笑)」
「あんた、授業寝てるくせに点数いいもんね?
どんな頭してんだかね!」
我ながら、勉強はできる。
受験だって先生からも余裕だという勧めで受けて
奨学金までもらえたほどだ。
しかし、態度が悪いためか
自宅には注意の電話が月イチでかかる。
母さんは、「そこだけが、あなたの欠点ね」と話していた。
「とにかく、わかるからって寝ちゃダメだよ!
一緒に進級して同じ学校行くんだから~!」
裕里はいつもわたしのために
お説教をしてくれる。
ささやかなことだけど私は幸せ者かもしれない。
でも、私の人生はすぐに
汚れたものになってしまう。
「向井 未咲都、ちょっとこい。」
「あ、はい。沼田先生
裕里!先戻ってて!」
あの時、裕里を先に返さなきゃ良かった。
一人にならなきゃ良かった。