数十年前、ある男がこの青年と同じように手をあてていた。男の腕は小さな赤ん坊をしっかりに抱きしめていた。
「この子の母親は桜が好きだった。そう言ってたあの人も、はかなく散ってしまった。私は、この子を一人前に育てられるだろうか…」
今までにない感情が芽生えた。どうにかして、彼を勇気付けたいと思った。
男が手を離したとき、柔らかい風が吹いた。私は、小さな花びら達を風に乗せ、男を包んだ。彼が優しく笑ったような気がした。ありがとう。頑張るよ。と言っているような気がした。