春。それは別れ。出逢い。切なくて、温かいもの。
私は毎年、それを見続けてきた。
見続けることしか、私にはできない。歩くことはできない。ただ、立っていることしかできないのだ。
ある年の日、青年が私に手をあてた。もう一方の手には、菱形の真っ白な菊の花束をきつく握りしめていた。
微かに震えているのが、伝わってきた。
何かを呟いていて、その言葉はやがて涙に変わっていった。
それを見て、私は忘れかけていた、ある記憶を思い出した。