漆黒の闇に浮かぶ月に照らされているのは、峠にひっそりと佇む大きな屋敷。


屋敷の外は牢屋のような鉄柵に囲まれ、その内側には、今にも血が滴りそうなくらい毒々しい赫赫(かっかく)たる不気味な薔薇。


屋敷の外壁は頑丈なレンガに覆われ、大した事が無ければ決して崩れる事は無いであろう。


屋敷の中部は全てと言って良いほどの赤。
屋敷の主は赤を好む者なのであろう。


カタカタ…カタ…



暗闇に蠢く人影。
だんだんと夜が更けるにつれ高くなる漆黒の闇に浮かぶ月。
月が昇るにつれ暗闇に蠢く人影が露わ(あら)になってゆく。


血液が全く通って無いかを思わせるほど不気味なくらい白い肌。

その肌にくっきりと浮き立つ鼻梁(びりょう)


誰をも魅了してしまいそうな綺麗で形の良い唇。

そして、その双眸(そうぼう)は切れ長でまるで、冷血人間の如く深く紅い鈍光を放っていた。


不意に屋敷の主が口元を緩め、何かを口ずさんだ。