街道の周りの緑が深くなり、道脇には見たこともない大振りで鮮やかな色をした花が目立つようになってきた。

暦の上では晩秋から初冬を迎える頃だというのに、気候はどんどん暑さを増すばかりだ。

それは、半熱帯気候のエイフォーティクへ、近づいたことを意味する。

やがてきれいに舗装された煉瓦敷きの街道で、鎧に身を包んだ軍隊とすれ違うことが多くなった頃、行く手に大きな壁のようなものが見え始めた。

「あれがエイフォーティク帝国の“関所街”のひとつだよ」

なぜか見知った様子のシルフェの言葉に、セレイアはその大壁に見入った。

近づけば近づくほど、大きい。

人を縦に十五人並べられるほどの、圧倒的な高さがある。

そこに、巨大な閂をかけられた、大岩のようにごつい大扉が存在していた。

「…“のひとつ”ってことは、こんな大扉がほかにもあるの? シルフェ」

ディセルが訊ねると、シルフェはこともなげに頷き説明してくれる。

「この帝国は、猜疑心が強いからね。領土の境界には必ず、一定間隔でこういった大扉の関所街を設けているんだ」

これほどの大扉をたくさんつくるには、どれだけの労力を要するのだろう。

それだけこの国が、財力を有しているということか。

「こんながっちがちの大扉を用意しているような国に、俺たち商人でもない旅人が入れるのか?」

サラマスがうさん臭そうな目を扉に向けながら言う。

「大丈夫なはずよ。人の出入りは禁じていないはず。旅人はお金を落としていくから、どうしても必要不可欠なの」

そう答えながらも、セレイアは少し不安だった。