案内された隠れ家は、王宮裏のジャングルにあった隠れ家をひとまわり小さくしたような小屋だった。この小屋も、ジャングルの緑にまぎれるようにして、獣道の奥にひっそりと建っている。

井戸や地下蔵もちゃんと備えているようだ。

追っ手は来ていない。

井戸で水を飲み、小屋の椅子に座ってやっと一心地ついたら、あたりはすっかり月と闇が支配する時間となっていた。

簡単な食事のあと、シルフェは与えられた部屋の窓から身を乗り出して月を眺めた。

…月が、太り始めている。

(スノーティアス…。レインスを見つけてアクセサリーを完成させてくれるかな)

風の力さえ戻れば、手紙を風に乗せて仲間のもとへ運ぶことができる。シルフェは風を使役しようとしてみたが、やはりまだ風は動いてくれなかった。

ため息をつき、室内へと視線を戻す。

ベッドのほかにはほとんど家具のないからんとした部屋だ。だが気になったのは、宿にも皇帝の寝室にもあった大振りの赤い花の造花がここにもあることだ。この国の人はよっぽどこの花が好きらしい。

しかしなぜ、造花なのだろう。

そんなことを考えていたら、突然部屋の扉がカチャリと開いた。

現れたのはボリスだった。