麗雪神話~幻の水辺の告白~

「うわあ……」

その部屋には壁一面に詰まった本棚に、たくさんの本が並んでいた。

アル=ラガハテスの火の部族の息子ブレイズが持つ、書斎天幕というものと、同じくらいの冊数である。無論シルフェは書斎天幕を知らないので、とにかくすごい量の本だと思った。

書斎天幕と違うところは、並んでいる本の種類だろう。

ブレイズが物語の本を好んで集めていたのに対して、ここにあるのは兵法や経済、政治に関するいかにも難しい本ばかり。

(あの男が読むのかな?)

シルフェが興味津々で眺めていると、不意に背後から声がかかった。

「そこで何をしている」

怒気をはらんだ声に、シルフェはびくっと体を震わせ背後を振り返った。

そこには、案の定シルフェを助けてくれた栗色の髪の男が立っていた。

明瞭になった頭で改めて見ると、男は美形だった。

すっきりとした切れ長の黒い瞳に、褐色の肌。無造作に束ねた栗色の髪も光沢があって美しい。

「病人は薬を飲んで大人しく寝てろ」

「いや、あの…もう熱は下がったよ。ええと、助けてくれて……」

ありがとう、をシルフェは口の中でもごもご言ってごまかした。