「……ディセルから、どうぞ」
「いや、セレイアから」

「………ええと」

セレイアは自分が何を言おうとしていたか、全然思い出せなかった。

だから少々間をおいて、ふと浮かんだことを聞いてみた。

「ディセルは、故郷に帰ったら、何がしたい?」

ディセルは意表を突かれたような表情になった。そしてそのまま目を伏せる。

明るい話題を選んだはずなのに、ディセルの表情は冴えない。セレイアもきっと、似たような表情をしているはずだ。

…なんでだろう。

「……家族に、まずは挨拶かな。
ディーネ姉上やサンディオス様にね」

「お姉さまがいるんだっけね。サンディオス様っていうのは?」

「雷の神で、姉上の婚約者でもある方だよ」

「そう……」

また、会話が途切れる。

ここには葉擦れも風の音もない。

何もない空間に、ディセルの存在を強く意識した時、とくんと高鳴る心臓の音を、セレイアは聞いた気がした。