ディセルの言葉で幾分冷静になったセレイアは、今更ながらに気付いた。

今、暗い廃屋で、ディセルと二人っきりであるということに。

それに気づいてしまうと、途端にほかのことは何も考えられなくなった。

廃屋の中には静寂が満ちていて、互いの呼吸の音が聞こえるほどだ。

「………………」

セレイアは何を喋っていいかわからなくなり、黙りこくった。

ディセルも同様に黙りこくっており、彼の胸の内に何があるのか、はかり知ることはできない。

二人を隔てる距離は、わずか一メートルほど。

手を伸ばせば届いてしまう距離だ。

そんなことをやけに意識する自分が、わからない。

ディセルの美しい首もとや、顎のライン、整った唇…そういったものを、どうしても過剰に意識してしまう。自分でも変だと思う。

何か喋らなければ、頭が変になりそうだった。

だから、セレイアは声を絞り出した。

「「あの」」

しかし同時にディセルも同じように声をあげたので、二人は同時にまた黙ってしまう。