数刻の後、シルフェが帰ってきた。

どうやらどこにもけがはなく、無事なようだった。

「で、どうだったんだよ。ちゃんと王都に入れたのか?」

サラマスが照れ隠しのように乱暴な口調で問いかけると、シルフェはにっこりと笑って胸を叩いて見せた。

「もっちろん! 僕を甘く見ないでよね。
上空から王都に入って、いい廃屋を見つけてきたよ。荒れ果てているし、誰も使っていないみたいだったから、あそこなら拠点にできると思う。明日の夜、全員で乗り込もう」

―シルフェの風の力を使い、闇に紛れ、兵たちから見つからないほどの高さから全員で侵入する。

作戦は単純だった。

ここでもシルフェの力が大活躍して、セレイアは新しい旅の仲間である彼をとても頼もしいと思った。

翌日に備えて準備も整い、ひと心地つくと、やっと周囲の様子が目に入るようになった。

ふと目に留まるものがある。

サイドボードに活けられた花が、ラパスの宿にも活けてあったものと同じだったのだ。

大振りの赤い花だ。さぞ甘いにおいがしそうだが、顔を近づけてもまったく香らない。

不思議に思っていると、気が付いた。

(これ…造花だわ)

けっこう豪華な宿をとったのに、造花だなんてなんだか意外だった。

この花がのちに、ある大きな出来事の鍵となるのだが…それはまだ先の話である。