「…貴様、ヴェイン。やはり皇帝に取り入っていたか!」

「あれ、君、誰だっけ?」

「…ふざけるな!」

「悪い悪い。そう怒らないで。冗談だよ」

くつくつと、ヴェインは喉の奥で嫌な笑いを響かせる。

すべては目の前のこの男を倒すために、サラマスたちは危険を冒して皇宮に忍び入ったのだ。やっと姿を現した彼を、葬り去ることができるのは今、サラマスしかいない。

問答無用とばかりにサラマスが腰の短剣を引き抜こうとすると、その右手が冷たい感触に包まれた。

冷たいのはヴェインの手だった。

(……!!)

大して強い力で抑え込まれているようでもないのに、サラマスの右手はぴくりとも動かなくなってしまう。こんなことは初めてだった。

「物騒な真似はよしてよ? 皇帝の信頼を失っていいわけ?」

「……………」

打倒ヴェインと言う餌を前に、皇帝の信頼などどうでもいい。

…だが、ヴェインの言葉で少し頭が冷えた。

まだ、このヴェインから聞き出したいことはたくさんあるのだ。

それを聞きだすまでは、生かしておかねばならない。

サラマスが腕から力を抜いたと見るや、ヴェインも手をどけた。