「翔平君?」
キスの合間に、どうにか声をかけてみると。
「萌、いいのか? こんな俺で」
いいのか、なんて聞いておきながら、翔平君は私の背中と腰に腕を回して抱き寄せた。
絶対に私を離さないという気持ちをそうやって強く見せられれば、頷く以外の選択肢なんてないのに。
もちろん私はどんな翔平君だって好きだから、選択肢はひとつだけだ。
キスを続けようとする翔平君との間に手を差し入れてほんの少し距離を作ると、悲しい視線を向けられた。
それすら素敵だと思えてしまう私は、本当に翔平君が好きなんだと実感する。
「ねえ。こんなに弱ってる翔平君も格好よく見えるなんて、私もどこかおかしいかもしれないよ。そんな私でもいいの?」
私の気持ちが伝わるようにゆっくりとそう言うと、翔平君は一瞬だけ驚いた表情を見せた。
私の言葉に不意を突かれたのかもしれない。
昨日まで、私は自分の気持ちを素直に翔平君に伝えたこともないし、好きだと口にしたこともない。
たとえその気持ちを翔平君が気づいていたとしても、お互いにそれを確認し合ったこともない。
そんな私が軽口をたたいて翔平君に詰め寄るだなんて、驚いたに違いない。
雨のせいで心が弱っている翔平君につけこんだ感も否めないけれど。
私はゆっくりと翔平君の頬を撫でた。
ほんの数時間前まで、ほかの男性とのお見合いのためにエステで体を磨き、髪形も整えてもらっていたというのにこの状況。
人生は何が起こるかわからない。
気持ちを伝え合い、私は翔平君のものだという嬉しくも予想外の展開を受け入れた途端、自信にも似た強さが生まれ私を動かしている。
「二十年近くそばにいるんだから、翔平君が強いだけの人じゃないってわかってるよ。ピーマンが食べられないとかカレーは甘くないと嫌だとか。それに、雨の日が苦手だって、ちゃんと知ってるから」
最後の言葉を口にしたとき、翔平君の顔が歪み、ちくりと胸が痛んだ。
けれど、そんなことを気にしない振りで笑う。
「そんな顔をしちゃだめだよ。せっかくの男前が台無し」

