「待って、私も一緒に行くから。それに上に何か着なきゃ寒いよ」
慌てて立ちあがり追いかけると、ちょうど玄関のドアを開けた翔平君が暗い空を見あげていた。
「雨が降り出したな」
感情を抑えたようなその声は、普段のそれよりも低く響いた。
「……雨」
私は玄関から出て、翔平君の隣りに並んだ。
暗い夜空を見てもよくわからないけれど、廊下に振り込んでくる雨の勢いは強く、辺りに響く雨音がやけに大きく聞こえる。
しばらくの間ふたりでその音に耳を傾け、ぼんやりと夜空を見上げていると、上着も着ていないせいで体が寒さで震えてきた。
こんなに寒いなら、そのうち雪に変わるかもしれない。
明日の朝積もっていたら通勤が大変だな。
それに、傘をささなければならないとしたら、翔平君、大丈夫だろうか。
そっと視線を上げると、相変わらず外を見ている綺麗な横顔があった。
何を思っているのかわからない固く結ばれた口元からは、微かな緊張感も感じられる。
「翔平君、コーヒーはやめて、紅茶でも飲もう」
翔平君の手をぎゅっと握ると、その手をゆっくりと握り返してくれた。
「コーヒーなら、明日早起きして駅前のカフェのモーニングを食べに行こうよ」
夜も深まった時間、ご近所の迷惑にならないよう、翔平君に体を寄せて小さな声でそう言った。
廊下の灯りに照らされて白みを帯びた翔平君の静かな表情に何も変化はないけれど。
今、翔平君が雨の音を聞きながら何を考えているのかがわかるだけに、この落ち着いた様子が切なく思える。
せめてほんの少しでも、心の痛みを口にしてくれればいいのに。
すると、私の思いを察したのか、口元をゆっくりと緩めた翔平君が私を見た。
「そうだな。あの店のモーニングのスコーンは評判どおりのうまさだよな」
「うん。今日はもうコーヒーは諦めよう」
「……ああ」

