粉よりもいいものって、翔平君のことだろう。
そんなことをさらりと言うなんて、私と違って恋愛に長けているんだなと感じて少し複雑だ。
「インスタントでもいいんだけど、あるか?」
「あー。インスタントもちょうど切らしてるんだ、ごめんね。紅茶ならあるよ、美乃里さんからの引っ越し祝いにたくさんもらったのがたしか……」
私はキッチンの吊戸棚にしまったはずの紅茶を取り出そうと立ち上がった。
「あ、紅茶なら今はいい。コーヒーが欲しかったんだ……。駅前の店、まだ開いてるなら買いに行くけど」
翔平君は、腕時計をちらりと見た。
私もカウンターに置いている時計を見ると、ちょうど22時になろうとしていた。
「あの店、遅くまで開いてるし、行ってくるか。明日の朝も飲みたいしな」
「え? 今から?」
「ああ。すぐだろ。ほかに何か欲しいものがあれば買ってくるぞ」
「ううん、何もないけど。それじゃ、私も一緒に行く」
「いい。遅いから風呂でも入ってゆっくりしてろ」
「でも……」
翔平君は、膝の上でごろごろしていた私をそっと降ろすと、テーブルに置いてあったスマホと財布を手に、玄関へ向かった。

