第三章 



小心者の私は、何がどこにあるのかがわかっていないと居心地が悪い。

食器棚の食器はしまわれる場所が決まっているし、はさみやペン、爪切り。

小さなものにも定位置があって、使ったら元の場所に戻さなければ気が済まないのだ。

冷蔵庫の中だって、食材ごとに保管する場所は決めてあるし、クローゼットの中の洋服もアイテムごと、色ごと、そしてサイズごとに分けてある。

そのおかげで、私の家はいつも整理整頓されていて綺麗だ。

もちろん掃除もちゃんとしているから、いつ誰が来ても散らかっていて恥ずかしい思いをすることはない。

「へえ。最後に萌の部屋に入ったのってかなり前だけど、あの頃と変わらず綺麗にしてるんだな」

リビングのソファに腰を降ろした翔平君が、部屋を見回している。

まさか今日、自分の家に翔平君が来るとは思っていなかった私は落ち着かない。

ここは自分の家だと言うのに、翔平君のほうがリラックスしている。

「最後に私の部屋……私が高校生の頃だよね。必死で受験勉強をしているのに兄さんとふたりで突然飛び込んできた」

私は上ずった声でそう答えた。

「ああ。たしか、樹が大きな仕事を終えて気分よく酔っぱらってそのまま萌の部屋に乱入したんだったよな。あのとき萌は数学の問題が解けなくて泣きそうで、俺が酔っぱらった頭で教えたんだっけ」

「うん。翔平君に教えてもらって数学は助かったけど、もう二度と突然入ってこられるのは嫌だから次の日には私の部屋に鍵をつけたもん」

「くくっ。覚えてる。樹が『萌が部屋から俺を追い出すんだー』って言って泣きついてきたし。でも萌は絶対に鍵を外さなかったよな。だけど、樹はあれに懲りて、酒にのまれないように注意するようになったから良かったんじゃないか?」

「うん。まあ、兄さんもあれからすぐに異動になったから会社の近くでひとり暮らしするようになったんだけど」

「ひとり暮らしは、異動っていうより、恋人と会える時間を増やしたかったからだろ? ただでさえ遠距離だから、こっちで会えるときにはふたりきりで過ごしたいだろうし。……あ、あの写真」

「え?」

何に気づいたのか、翔平君は立ち上がりキッチンとリビングを仕切っているカウンターに近づいた。