エステの最中につい眠ってしまったせいか、体が楽になり気持ちも明るくなった。

おまけにプロにほどこされたメイクは魔法をかけたように私を綺麗に見せてくれ、夜の街を歩く表情はきっと軽やかなはずだ。

時計を見れば二十時を過ぎたばかりで、普段ならまだ会社で仕事をしている時刻。

事務所で残業する同僚たちのことを考えると申し訳ないけれど、こんな機会は滅多にない。

買い物でもして帰ろうと駅に向かっていると、突然、私を呼ぶ声が聞こえた。

立ち止まり、周囲を見回すと。

「え、翔平君?」

翔平君が、大通りの向こう側にいて、私に向かって叫んでいる。

「そこで待ってろ」

通りを挟んで聞こえてくる声はどこか焦っているようだ。

「そういえば、翔平君の事務所ってこのあたりだったっけ」

ふと思い出して見回せば、少し離れた場所に翔平君が働いている事務所が見えた。

いつも遅くまで仕事をしていると聞くけれど、翔平君も今日は早く終わったのかもしれない。

それにしても、アマザンホテルから徒歩十分程度のオフィス街に事務所があるなんて羨ましい。

雑誌で紹介されるお店は多いし、おいしいものなら事欠かない。

仕事のあとも何かと楽しそうだし。

なんてことを考えながら待っていると、信号が青に変わり、翔平君が私に向かって歩いてきた。