「遊び回ってるわけじゃないよ。仕事が忙しくてこの時間にしか帰れないの。兄さんだってそれは知ってる」

毎日の残業で私の体は疲れきっているのに、翔平君はそんなことお構いなしにお説教を始める。

社会人になってかなり経ち、ふらふらと遊んでいるばかりじゃないのに、会うたびいつもお説教じみた言葉で私を睨む。

「仕事って、お前いつもこんなに遅いのか?」

「うん。大体この時間かな。大きな事務所で働いてる翔平君と違って、私は中堅のデザイン事務所勤務だからね。遅くまで頑張らないと仕事は終わらないの」

「……女でも?」

「男も女も関係ない。大きな仕事の納期が迫ったら、男でも女でも会社に泊まり込んで徹夜で仕事してるし。大学を卒業してからは自分が女だなんて意識飛んじゃった」

どうってことないよと、言外に含ませながら笑ってみせると、翔平君は眉を寄せた。

いつまでも私のことを世間知らずの小学生だと思っている彼の態度にはとっくに慣れてしまった。

親友の妹である私への見方としては、当然のものかもしれない。

落ち込みそうになる気持ちを呼び戻すように小さく息をついて、慣れた作り笑顔を浮かべると。

「翔平君には、女だか男だかわからない私なんかよりも綺麗な女子が周りにいっぱいいるんでしょ? 情けなくなるから私のことはあまり見ないでよ。
私はこれから帰ってぐっすり寝て、お肌の調子を整えて、女子力アップさせる予定だし。
それに、どうにか生きてるから心配しないで」