「知ってるも何も。兄さんもこのマンションを気に入っていて、昨日も遊びに来てくれたばかり」
ぼそぼそと話す私の言葉を、翔平君はまるで信じられないとでもいうような顔をして再び舌打ちをした。
「樹の奴、俺には何も言ってないぞ。先週飲んだときもそんなことひと言も言わずにご機嫌に酔っぱらって俺に家まで送らせたくせに」
「翔平君……? どうしたの? えっと、そんなに私がこのマンションに住むって変かな。あ、変だよね。小さなデザイン事務所で働いてるOLがマンションを買うなんておかしいよね」
自分で言いながらも自分をみじめにしてしまう言葉に傷ついて、思わず俯いてしまった。
とはいっても、今働いている事務所は最終的には自分でお世話になると決めた事務所だから、かわいそうなんて本気で思ってるわけではないんだけど。
翔平君が働いている会社があまりにも大きすぎて、その劣等感を失くすことは難しい。
おまけに規模の差はあれ同業だとなれば、それは仕方がないと思う。
翔平君は世間にその名前を知られている人気デザイナーであり、一方の私はといえば、まだまだ成長途中のひよっこデザイナー。
「翔平君の稼ぎに比べたら、私のお給料なんて、自慢できるような額じゃないんだけどね。でも、私にとっては一生懸命働いて貯めたお金で買った大切な場所だから」
私の言葉にも、翔平君は相変わらず不機嫌な顔で私を睨んでくる。

