「今回、父さんと母さんがそれぞれの事務所を通じてコメントを出したのは、俺と萌の結婚を騒ぎ立てるな。もし面倒なことをしでかしたら事務所がただじゃおかないぞって知らせる意味もあったんだ。いざというときに事務所の力を存分に利用するためにふたりとも移籍なんて考えず、ふたつの大きな事務所の保護下で仕事に集中してきたんだ。

俺と萌の結婚に父さんたちの事務所の名前を使うのもどうかと思うけど、それもまた親孝行だと思って我慢してくれ。それだけあのふたりは萌のことを大切に思ってるし、早く結婚して娘になって欲しいってことだから」

翔平君の手のひらが、私の頭をするすると撫でる。

子どもの頃、私が何かに悩んでいるときにそうしてくれた優しさを思い出した。

私の悩みなんて、たいていはちっぽけなもので、宿題のプリントを破ってしまってどうしようだとか、兄さんに借りた鉛筆を失くしてしまったとか、今思い出せば笑えるものがほとんどだった。

そんなときも、翔平君はこうして手の平の温かさで私を落ち着かせてくれたっけ。

あと、高校生の頃には通学途中にすれ違う男子高校生に告白されたと悩んだときには手の平の動きはかなり乱暴で、温かいどころか熱かった記憶がある。

今それを思い出せば、嫉妬だったのだろうかと、虫のいい考えも浮かぶけれど。