その気持ちを表情にのせて翔平君に頷いて見せると、何故かため息を吐き出された。

「俺や父さんと母さんを甘くみるなよ?」

「え?」

「萌が俺たちの仕事に気を遣ってるのはよくわかるけど。まず、父さんと母さんがどうして別々の事務所に所属してるかわかるか? 長い間第一線で活躍しているし、事務所への貢献度だって半端なものじゃない。本人たちが希望すれば円満な独立だって可能だって母さんのマネージャーは言ってるんだ。そうでなくても、せめて同じ事務所に所属すれば何かと融通もきかせてもらえるはずだろ?」

「あ、うん、それはよくわかる」

翔平君は、私がちゃんと納得できるように気を遣っているのか、かなりゆっくりと話してくれる。

私にはなじみのない芸能界の話だけど、今聞いたことはよく理解できた。

何度か頷いた私に、翔平君は更に言葉を続ける。

「父さんと母さんの事務所は、業界ナンバーワンを争う大きな芸能事務所なんだ。ふたりが結婚したときには双方の事務所が相手を引き抜きにかかったらしいけど、父さんも母さんも移籍を考えなかったらしい。どうしてだかわかるか?」

「え……。ううん。わかんないけど、美乃里さんの性格からいって面倒だったとか」

「まあ、それもまたあるだろうけど。父さんと母さんが言うには、大きな事務所にいた方が何かあったときに守ってもらえるし、仕事に集中できるかららしい。ふたりとも、生活できる程度のお給料と仕事に集中できる環境があればそれでいいっていって独立を考えたこともないし、これからもない。それに、それぞれが大きな事務所にいるのなら、自分を支えてくれる力は倍になる。だろ?」

「たしかに」

頷く私に、翔平君はほっと息を吐いた。

私がすんなり理解したことに安心したようだ。

芸能界のことは詳しくないけれど、翔平君が「片桐デザイン事務所」に守られ、私が「別府デザイン事務所」に守られているのと同じことだろう。

とはいえ、別府所長には申しわけないけれど、「片桐」の力と比べればうちの事務所の保護能力は小さいかもしれない。

そう思ったことは、内緒だけど。