ふたりの気持ちを寄り添わせて以来、私のすべてを見透かすような、包みこむようなこの甘い空気を何度も感じている。
これまでも翔平君の私への愛情や気遣いは誰にも負けないほど大きかったけれど、そこに加わった特別な関係が、彼をやたら素直にさせているようで。
人目を気にせずの甘さいっぱいの言葉や視線に攻められて、私はいつも即陥落、白旗をあげているのだ。
翔平君に見つめられれば周囲の景色は消え去り、ふたりだけの世界が突如現れる。
なんて、冗談だけど、翔平君の視線に囚われるといつもそこから離れられなくなって、翔平君のことが大好きな自分しか存在しなくなる。
そんな子どものような恋愛どっぷりの日々がいつまで続くのかと不安にもなるけれど、とにかく今も、翔平君から目が離せない。
すると。
「で、どうして、水上さんがここに?」
小椋君の言葉が響き、はっと我に返った。
「わざわざここに来るなんて、何か用事でも?」
首をかしげ、翔平君に尋ねる小椋君の言葉に私も何度か頷いた。
平日の今日、もちろん翔平君も仕事のはずなのに、どうしてここにいるんだろう。
まさに今話題にしていた「片桐デザイン事務所」からここまで電車で30分で来れるとはいっても、これまでこの喫茶店で会ったことはないのに。
「翔平君、このあたりで打ち合わせがあったとか?」
「いや、それを役所に出しに行こうと思って、仕事を抜けてきた。事務所に寄ったら別府さんがいて、萌は気分転換に出てるってここを教えてもらったんだ」
「役所?」
問いかける私に、翔平君は背後から私の肩に手を置き、視線で何かを教えてくれた。
その視線をたどれば、私がテーブルの上に広げていた「婚姻届」。
まだ捺印が終わっていないそれを確認して、翔平君は私の頭上でくすくすと笑っている。
「俺の立場ばかりを考えるのもいいけど、俺はこれからもっと仕事に欲を出すし、大きな仕事もしていくつもりだ。今以上に世間が俺の名前を知るようになるし、忙しくなる」
「あ……うん。翔平君なら、もっと有名になると思うけど」
翔平君を見上げてそう言うと、肩に置かれた手に一瞬力がこもり、翔平君の強い意志を感じた。

