普段事務所で見せる軽やかな姿からは想像できないし、たとえ受賞したとしても辞退するようなイメージもあるのに。
「俺、就職活動中にその受賞を知ったあと、テレビで別府さんが『このことは授賞式が終わったら忘れてくれ』って真面目な顔で言ってたのを見て卒倒しそうになった」
「は? 忘れてくれ?」
「そう。大きな仕事ばかりはつまらない。身近な人のために仕事がしたいって言って片桐を辞めたのに大きな賞を獲ったらその意味がない。個人事務所で地味に仕事を続けたいから授賞式以降は取材も何もかもお断り。忘れてくれってさ」
「へ、へえ……。らしいといえば、らしいよね」
笑いをこらえきれず、体を震わせている小椋君同様、私もなんだかおかしくなってくる。
地味に仕事を続けたいなんて言葉、別府所長なら言いそうだ。
「もしかして、事務所のみんながそのことを口にしないのは別府所長のせい?」
「ああ、そのことを口にしたら一気に機嫌が悪くなるんだ。授賞式でもらったもの一式、事務所の奥に埋もれてると思うぞ」
「だけど、そんなに嫌なら辞退すれば良かったのに」
ふと思いついて、そうつぶやいた。
歴代の受賞者の中には、事前に打診があった時点で辞退した人もいると聞いたことがある。
だから、別府所長が本当に受賞が嫌だったら辞退するという方法もあったのに。
すると、突然私の背後から聞き慣れた声が聞こえた。
「別府さんの奥さんが、辞退したら離婚だって言ったんだ」
その声にはっとして振り返ると、にやりと笑う翔平君がいた。

