初恋の甘い仕上げ方





「俺、「片桐」の採用試験受けて、内定もらったんだよな」

「え? ほんと?」

「ああ。俺が出た大学のOBもかなりいるし、設計やデザインを仕事にしたい人間は当然のように「片桐」に行くんだ」

「知ってる。翔平君と小椋君、同じ大学だし」

私には絶対に入れないほどのお利口さんの大学だということは、言わなくてもいい周知の事実なので黙っておく。

「水上翔平っていうデザイナーだけでなく有名な建築士もたくさんいるし、勉強するにはもってこいの事務所だとは思ったんだけど」

「けど?」

「あまりにも大きな事務所にびびったのもあったし、ちょうどその前年に誰が設計デザイン大賞を獲ったか知ってるか?」

小椋君の視線が向けられて、自分たちの就職活動の年を思い出す。

ちょうど五年前、翔平君があの事故にあった年だとはすぐに思い出したけれど、設計デザイン大賞を誰が獲ったのかは記憶にない。

大学時代デザインの勉強をしていたとはいっても、目指す道は自動販売機の設計だったから、特に賞を意識したこともなかった。

ただ、その数年前に翔平君がその賞を獲ったことは覚えているけれど。

「うーん、誰だったっけ?」

「白石の仕事への欲のなさはこういうところにも顔を出すよな。設計デザイン大賞を目指してる奴なら過去の受賞者くらい覚えてるはず……別府さんだよ。別府所長。俺らの上司であり、デザインを楽しむ優しいおじさん」

「そうなの? 別府所長が?」

「そう。あの年、別府さんと水上さんが大賞の有力候補だったんだ。下馬評では水上さんが有利だって話だったんだけど、結果は別府さんの初の受賞」

「へえ……知らなかった。別府所長が仕事ができるってのはわかってたけど、賞を獲るほどだとは」

まったく知らなかった。

別府所長の下で働き始めて五年が経つというのに、誰もそんなこと教えてくれなかった。