「婚姻届って、初めて見た」
「うん、私も」
私と小椋君は、テーブルに広げた婚姻届に視線を落とし、じっと見つめた。
翔平君が書くべき「夫になる人」の欄は既に記入が終わり、「同居を始めたとき」の欄にも翔平君が私の家に初めて泊まった日付がひときわ力強く書かれている。
それを最初に見たとき、同居することがよっぽど嬉しいんだろうと思い、その子供っぽさに思わず吹き出しそうになった。
翔平君の書いた文字が達筆なのは誰が見ても明らかで小椋くんも感心しているほどだけど、普段以上にその文字が生き生きしていると感じるのは私だけかもしれない。
その文字の大きさと筆圧の高さから、翔平君がどんな気持ちでこれを書き上げたのかがわかる。
結婚が嬉しくて嬉しくてたまらないと、紙切れ一枚の向こう側から叫んでいるようだ。
それと同時に、婚姻届を薄い紙切れ一枚と言って軽く受け止めるひとも多い中で、翔平君が結婚への心構えと喜びを隠すことなく見せてくれることに、私は愛されていると実感できて胸がいっぱいになる。
喜びに満ちた思いが溢れているのは両家の父親の署名が済んでいる証人の欄も同様で、ひと文字ひと文字丁寧に書かれた名前を見れば、私と翔平君のことを愛しく思う親の愛情が感じられ、これもまた私の胸をいっぱいにした。
「白石も、『妻になる人』の欄にちゃんと書いたんだな。水上さんに負けないくらい綺麗な字で、羨ましいよ」
「ありがとう。これも翔平君の影響なんだよね。翔平君の字があまりにも綺麗だから、私も真似したくて小学生の頃から書道教室に通ってたの。……厳しいおばあちゃん先生だったから、礼儀や挨拶にも厳しくて大変だったけど」
私はそう言いながら、正座が苦しくて思わず足を崩した瞬間叱られたことを思いだして、肩をすくめた。
「そうか。白石が生きていくためのすべての指針は水上さんなんだな。小学校からの長い付き合いだからって、俺が勝てるわけないよな」
「ん? 声が小さくてよく聞こえなかったんだけど、どうしたの?」
「いや。俺も、将来の婚姻届の記入に備えてペン文字のおけいこでも始めようかなって言っただけ」
「ふーん。小椋君の字だって、読めないほど汚いわけじゃないよ」
「それ、誉めてないだろ」

