「萌桃」と書いて「もも」と読む、名前通りの桃のジュースはどろりとした桃の濃厚さがたまらなくおいしい飲み物だった。
たまたま私の名前が付けられたそのジュースは、子供のころの特別だった。
とくにじいちゃんは「じじばか」全開で、「桃のように愛らしい萌のために作られたジュースだな」と口にしてはよく買ってきてくれた。
缶を一本飲み干すと、たちまち満腹になり、ご飯が食べられなくなっては母さんによく怒られていた。
たしかによく飲んでいたけれど、翔平君が我が家にくる機会が増え、冷蔵庫に翔平君が好きなオレンジジュースが並ぶにつれて気持ちは桃からオレンジへとシフトしていった。
翔平君と同じものが飲みたいという、単純な恋心を露わに見せながら、私の中から「萌桃」の存在は薄れていき、そして販売中止となった。
その後、私の記憶の中から「萌桃」はゆっくりと消えていったのだ。
「『萌桃』が復刻版のラストを飾り、おまけに俺と萌にデザインの仕事が舞い込んだなんて、運命のようだろ?」
「運命……」
「ああ。萌のための桃のジュースに、俺たちが関わる事ができるって知って、もう、俺の我慢も限界に近かった」
「……限界?」
その言葉の意味がわからなくて、じっと翔平君を見返すと、途端に私が手にしていた紙が取り上げられ、テーブルに戻された。
「どうしたの?」
驚いてその紙に視線を向ける私を、翔平君があっという間に抱き寄せた。
ソファに背を預け、膝の上に私を抱きかかえた翔平君は、大きく息を吐くと。
「今回の自動販売機の製造を請け負ったのは、萌が採用試験を諦めた会社だ」
「え?」
「久和さんからプロジェクトの参加を打診されたときに、自販機の製造を請け負う会社も聞いて、もしもあのとき萌が採用されていれば、今回のこのプロジェクトに設計者として参加していたのかもしれないなって思って、改めて落ち込んだ」
私の耳元にそう呟くと、翔平君の手は私の後頭部を柔らかい仕草で撫でた。
「だけど、萌が希望していた仕事を諦めて、求めていた未来とは違う今を送っていても。こうして同じプロジェクトに参加できるのなら、それはそれでいいんじゃないかとも思ったんだよな」
「……どういう、意味?」

