ふたりでひとしきりくすくす笑い、翔平君の気持ちが落ちついたとき。
「あの日、運動会に行けない、フランスに行きたくないけど行かなきゃだめだって子どもみたいに大声あげて泣く母さんを見てたらさ、なんか拗ねるのがばかばかしくなったんだ。滅多に会えなくても、運動会や参観日に来れなくても、こうして俺を想って泣いてくれるならそれでいいやって」
「うん……」
「中学を卒業するまでは、お手伝いさんが来て俺の世話をしてくれたし、その頃はまだ元気だったじいさんばあさんが田舎から出てきては昔ながらの叱り方で俺をしつけてくれたし。それって別に不幸ではないし。で、しょっちゅうこのオレンジジュースを飲んでた」
「長い付き合いだね」
そう言って、翔平君の手にあるオレンジジュースのラベルをふたりで見ると、やっぱりその絵を見て笑ってしまう。
「この太陽のすっとぼけた笑顔を見ると、母さんが泣きながら俺と一緒にいたいって言った日を思い出すんだ。それがあるからぐれることなく育ったんだけど……このことは、日付が変わったら忘れろ。いい年したオトコがこんな女々しい思い出を語るなんて恥ずかしすぎるだろ」
早口でそう言った翔平君は、続けて「あー、忘れろ忘れろ」と何度か繰り返したあと、その場の空気を変えるように、ソファに深く腰掛けた。
そして、私の肩を抱き寄せていた手をそっと離し、そのまま体を遠ざける。
離れた体温が恋しくて、翔平君の胸を追いたくなったけれど、翔平君の表情が硬いものに変わっていることに気付き、動きを止めた。
照れて赤くなったり、ラベルを見てくすくす笑っていたはずなのに、問いかけるようにその瞳を私に向けている。
「翔平君? どうかしたの?」
目の前にある表情につられるように、私は問いかけた。
かなり小さな私の声が、翔平君の耳に届いたのかどうかわからなかったけれど、聞き返すことなく、翔平君は再び口を開いた。
「今回のペットボトルのラベルだけど、最初にこのラベルを描いた人の許可を得て、俺が手直ししたんだ」
「翔平君が手直し? えっと、手直しした意味って一体何? それに、あの、さっきも聞いたけど、どうしてここにあるの?」
さっきから気になっているけれど、もう販売されていないこのオレンジジュース、それも以前は缶だったのにペットボトルに形を変えて。

