「昔のままの絵だね。でも、太陽がこんなにとぼけた笑顔だったなんて忘れてた」

ペットボトルのラベルを指先でなぞり、あの頃を思い出す。

「翔平君、いつもこのオレンジジュースを飲んでたよね。兄さんが炭酸飲料を飲んでる横で、こればっかりだったよね」

「そうだな。樹は炭酸以外は欲しくないって言ってこのオレンジジュースには見向きもしなかったから、白石家の冷蔵庫を開けて取り合いになったことはなかったな」 

当時を思い出したのか、懐かしそうにそう言って、翔平君は肩を揺らした。

そういえば、我が家の冷蔵庫にはいつもこのオレンジジュースが並んでいた。

そうだ、翔平君が熱を出したあの日は、たまたま切れていたから私が買いに行ったんだ。

それに、普段から兄さんが大好きな炭酸飲料よりも冷蔵庫に多く入っていた記憶もある。

兄さんと翔平君が高校生だった頃、ほぼ毎日我が家に来ていた翔平君のために母さんが用意していたのはオレンジジュースだけじゃなかった。

普段食事をするときに使う食器は翔平君のものが食器棚に揃えられていたし、夜中まで勉強するときの夜食用にと兄さんと翔平君それぞれが好きなインスタントラーメンが戸棚に備蓄されていた。

兄さんと翔平君が夜中に台所でラーメンを食べながら英単語を覚えていたのを何度か見て、無理矢理仲間に入れてもらったこともあった。

翔平君にわけてもらったラーメンのおいしさは、格別だった。

そして、着替えや歯ぶらしはもちろん、美乃里さんが用意したという布団もちゃんと我が家の二階にあったし。

翔平君が我が家で過ごすことは当然だという雰囲気を、まずは物質面からかためた母さんの作戦。

年頃の男の子だから、たとえ親友の家だとしても世話になることに照れくささもあっただろうし、抵抗ももちろんあったに違いない。