「この間、会社での打ち合わせで、以前噂があったモデルの三崎紗和さんと偶然会ったときには軽い挨拶を交わしただけで通り過ぎていたし、その様子を見た女子たちはそのクールさがたまらないってきゃーきゃー言ってました。だけど、恋人にはそんな優しい顔を見せるなんて、ギャップ萌えっていうんですか?」
「斉藤」
興奮気味に話す斉藤さんを、久和さんが低い声でたしなめる。
翔平君が口を結び、強い視線を向けているのに気付いたに違いない。
ちらりとその表情を見たあと、斉藤さんに渋い顔を作って見せた。
そこではっと気づいたのか、斉藤さんは慌てて頭を下げて「うわっ。まずい。怒ってる」と言いながら顔をひきつらせた。
けれど、慣れているのかすぐに表情を戻し、手元にあるコーヒーに手を伸ばした。
「まあ、これだけかわいい白石さんが恋人なら、顔も緩みますよね。うちの会社でも白石さんのことを狙ってるオトコが結構いるんですけどね。知ったらショックですよ。少なからず、僕も悲しいです」
肩を揺らし笑うその口調に悲しみなんてちっとも感じられないんだけど。
「あ、白石さん、疑ってますね。何度か打ち合わせでうちの会社に来てくれたとき、その自信がなさそうな、それでいてかわいい笑顔とそれでも一生懸命に仕事を頑張る姿に何人ものオトコの目が釘付けにされたんですよ」
「釘付けって、嘘です。何も言われたことないし……」
久和さんの部下に、こんなに口がうまくて明るい宣伝マンもいるんだと驚きながら、私は慌てて否定した。
物腰が柔らかで、いつも丁寧な態度で接してくれる久和さんとは大違いだけど、今日の打ち合わせではかなり鋭い意見も口にして周囲を納得させていた。
仕事を離れればかなり軽やかなひとだけど、久和さんがこうして共に仕事をさせているのだから、やり手なのかもしれないな。
なんて思っていると。
「白石さんが恋人なら、三崎さんと再会してもどうってことないですよね……」
相変わらずその名前を口にして頷いている。
斉藤さんに悪気はないのだろうけれど、こうして何度も翔平君と噂があった三崎さんの名前は聞きたくない。
そっと翔平君の顔をうかがうと、とくに気にすることなくハンバーグを食べているし、斉藤さんのことはまったく無視している。

