私は、手にしたままの箸を再び動かした。
私の目の前には大好物のエビフライがある。
迷うことなくそれを注文したとき翔平君がくすりと笑ったけれど、翔平君だってハンバーグを食べている。
結局、朝話していたメニューをそのまま注文した私たちは、視線を合わせ笑顔をかわしあった。
その様子を見ていた久和さんから「ふたりの大切な時間にお邪魔してすみません」と言ってからかわれ、小椋君からは「水上翔平がハンバーグを食べてる写真、ブログにアップしてもいいですか?」とスマホを向けられた。
もちろん翔平君がそれを許すわけもなく、小椋君は即座に諦めた。
小椋君にとって翔平君は仕事をするうえでの憧れであり目標でもあるらしく、ほんの一ミリでも嫌われるようなことはしたくないと、小声で私の耳元にそう言った。
私の前では翔平君のことを呼び捨てにしたり、結構辛口なことを言っていたのに。
いざ本人を目の前にすると、同じ業界で働く大先輩への憧れの方が勝るらしい。
さっさとスマホをしまう小椋君を横目に、私個人としても、ハンバーグを食べている翔平君の写真が欲しかったりもして。
少し残念だ。
私が写真を撮りたいって言ったら、許してくれるかな、やっぱり拒否されるかな。
どこにも公開しないし自分ひとりで時々眺めて目の保養をするだけなのに。
などと考えながらエビフライを食べていると、目の前にいる久和さんの部下の男性から声をかけられた。
私や小椋君と同い年くらいの斉藤さんという男性だ。
「僕、水上さんがこんなに恋人に甘い人だとは思いませんでしたよ」
斉藤さんは、その言葉に冷たい表情を向けた翔平君に気付いていないのか、からかうような表情で言葉を続ける。
「水上さんとお仕事を一緒にする機会が増えて、社内で水上さんのことを好きになる女の子はどんどん増えたんですよね。だけど、そんなの一切無視。仕事での関わりは大切にしてくれてもそれ以外はきっちり線を引いて距離を作る。そんなクールなところがいいと言ってさらに女性ファンは増殖しているというのに、流すばかりで」
感心するように話している斉藤さんに、翔平君は眉をよせて不機嫌さをアピールしている。
けれど、そんなこと意に介さず、斉藤さんの話は続く。

