初恋の甘い仕上げ方





私の頭をくしゃりと撫でた小椋君は、ほんの一瞬私を見つめると。

「あっという間に持っていかれたな」

ひとりごとのような、かすれた声。

持っていかれたって、何を? 誰に?

「いや、こっちの話。……で、その翔平君はどこで待ってるんだ?」

その場の空気を変えるような小椋君の声に視線を上げると、目を細め、何かに怒っているような、それでいて穏やかな顔。

「えっと、その……」

今小椋君が口にしたファミレスで待ってますとは言えず口ごもった。

言えば絶対にファミレスまでついてきて、私をからかうに決まってるし、できればここでさよならしたい。

昨日別府所長から必要以上にからかわれたあと、事務所のみんなは生ぬるい視線を私に向け、にやりと笑っていた。

興味津々のその様子にはかなり疲れたし、再び今日も小椋君からからかわれるとなると、私の気力は限界だ。

「勘弁願う……」

小椋君には申しわけないけれど、やっぱり帰ってもらおうと悩んだ末に出た言葉に、小椋君だけでなく、私もはっとし顔を見合わせた。

「あ、いや、今日はやっぱり無理だと、そう言いたくて。あの、えっと、翔平君に何も言ってないから驚くだろうし」

くすくす笑い始めた小椋君に、あわあわと弁解じみた言葉をつなげた。

「真っ赤な顔でそこまで断られると、余計に見たくなるよな。翔平君に」

「えー、やだ」

諦める気配のない小椋君にてこずっていると、私たちの前を歩いていた久和さんたちが突然振り返った。

あまりにも私と小椋君の声がうるさくて気を悪くしたのかとドキリとした。

けれど、いつも優しい久和さんが怒るなんて想像できないし。

ほんの一瞬、そんなことを考えて焦った私に、久和さんは問いかけるような視線を向けた。

「白石さんの翔平君って、片桐デザインの水上翔平さんのことですよね?」

にっこりと笑うその表情を見た瞬間、この場にいる全員でのファミレス行きが決定したと理解し、私は肩をがっくり落とした。