さすがに小さな頃はお手伝いさんが来てくれて翔平君の世話をしていたらしいけれど、私が翔平君と初めて出会ったときには完全にひとりで生活をしていた。
母さんに何もかもの面倒をみてもらっている兄さんとまったく違う翔平君のことをとても大人に感じた。
母さんが風邪で寝込んだときにはお料理はもちろん洗濯や掃除まで引き受けてくれたし母さんを病院に連れて行ってくれた。
その間、何もできない兄さんはただオロオロするばかりで、我が兄ながらかなりがっかりした。
学校の成績だっていつも上位に入っていたし、何をしても万能の翔平君のことを好きにならないわけがない。
家にひとりでいるよりも楽しいと言っては我が家によく来ていた翔平君と会うたびその思いは強くなり、その当時から私の中ではダントツで一番に素敵だと思える男性だったのだ。
ひたすら私を溺愛し優しさばかりをくれる兄さんとはまるで違う、いつも冷静で落ち着いた物腰に、ランドセルを背負っていた私の心は揺れに揺れた。
当時から人見知りがちだった私は、その落ち着いた様子に戸惑うこともあったけれど、翔平君の言葉には、軽く突き放しながらも相手を思う優しさが溢れていた。
子どもながらにこの人は意地悪じゃないと確信し、少しずつ距離を縮めて『しょーへいくん』と口にする回数が増えていった。
私をひたすら猫かわいがりする年の離れた兄さんに苦笑しつつ、翔平君自身も私を自分の妹のように大切にしてくれた……と思う。
小学校の運動会には私の家族に混じって大きな声で応援してくれたし、学芸会での写真担当はいつも最前列を陣取った翔平君だった。
卒業式にも「春休みで暇だから」と言って顔を見せてくれた。
当時大学生だった翔平君のスーツ姿は、中学校入学を控えたおしゃまな女の子たちの間にかなりの反響を呼んで、しばらくの間、話題を独占していた。

