「あのときタルタルソースをつけて大きく笑ってた萌に、俺は今こんなことをするんだから、未来はわからないよな」
「え……?」
今まで私の口元に触れていた翔平君の指先がすっと離れたかと思うと、その手は予想通り後頭部に回り、勢いよく翔平君に向かって引き寄せられた。
今度こそ。
翔平君の唇を視界にとらえ、すっと目を閉じてその温かさを待っていると。
「え?」
待っていた温かさは唇の真ん中に落とされることはなく、少し離れた場所に落とされた。
それも、唇ではなく、翔平君の舌が、私の口元を軽くなめたような気がした。
私は閉じた目を慌てて開くと、戸惑う私を見越していたかのような余裕の笑顔。
「かわいい萌ちゃんのこのあたりにあったタルタルソース。あの頃はティッシュで拭いてあげたけど、大人になった萌はそれじゃ満足できないんじゃないか?」
「そ、そんなことない、けど」
「萌ちゃんの口元を拭いてあげるのも俺のひそかな楽しみだったけど、もうそれだけじゃ俺も満足できないから」
「う、うん」
次第に真面目な顔つきに変わる翔平君に気圧されるように、私は何度も頷いた。
「夕べはとんだ邪魔が入ったけど、今日はちょっと大人の萌ちゃんを楽しみにしてるからな」
さっき翔平君の舌がふれたあたりを、今度は指先がするりと撫でて、私の体はぴくりと揺れた。
低い声と潤んだ目に攻められているようで、体が固まった。
間近にある翔平君の唇を思わず見つめ、いわゆる「大人の萌ちゃん」は、次の展開を待ってしまう。
今、指先で触れられたあたりがやたら熱くて仕方がない。
すると、翔平君が一瞬で表情を和らげ、私の額を突いた。
「そんな顔して煽ってもだめ。萌のほっぺは赤いけど、信号は青に変わるから、続きは今晩」
「え……」
翔平君は、肩を震わせて笑いながら再びハンドルに手を置きアクセルを踏んだ。
窓の向こうに見える緑豊かな景色が流れ始める。
「な、なんだ……」
一瞬、キスしてこのままどこかに連れて行ってくれるのかと錯覚したけど、まさかそんなことを翔平君がするわけがない。
大人の翔平君がまさか、ね。

