何かを含んだような視線はまっすぐ私の口元に向けられていて、その先にある展開を予想した。
翔平君の手が私に向かって伸びてきて、そのまま後頭部に回されることを予感した私は、無意識にヘッドレストから頭を浮かせた。
手だけではなくて、翔平君の顔も少しずつ迫り、ふっと笑ったと同時に感じる翔平君の息遣い。
それがくすぐったくて、思わず小さく声をあげながら私からもそっと近づいていくと。
まさに唇が触れ合うかという寸前で、翔平君の人差し指が私の唇の端をぐいっとなぞった。
少々どころではなく、それなりの痛みを感じて目を見開いた。
「な、なに?」
慌てる私に、翔平君はしてやったりな顔で笑うと、もう一度同じところを指でなぞった。
今度は優しくゆっくりとした動きで痛くはないけれど、どうしてこんなことをするのかわからない。
そんな私の戸惑いに気付いているのかわからないけれど、翔平君は何か楽しいことを思いだしたように口を開いた。
「ここに、タルタルソースがついてたな」
「え? タルタル……」
「そう。いつもはおばさんに叱られるのが怖くて綺麗に食事しているのに、エビフライだけはそれを忘れておいしそうに頬張って食べてた」
「そんなの……忘れた」
小さな頃からエビフライが大好きで、目にした途端そこにあるもの全部を食べなきゃ気が済まなかった。
兄さんのエビフライはもちろん、翔平君のお皿にあるエビフライだって横取りしては食べていた。
翔平君だって好きだっただろうけれど、いつも私に譲ってくれた。
兄さんが怒って私から取り返そうとしていたのとは、大違いだ。
翔平君は今、そのことを思い出しているんだろう、私の口元を見ながら笑っている。

