初恋の甘い仕上げ方





仕事が終わって一緒に帰るなんていうシチュエーションにも憧れていたし、高校生のデートのように遊園地で観覧車に乗っちゃうことも、夢見ていた。

長すぎる片思い期間にとりこぼしたたくさんのことを考えると悔しいけれど、この先翔平君と同じ人生を歩きながら、素通りしてしまったこれまでの時間を取り返していきたいと思う。

そして、翔平君が運転する車はもうすぐ目的地に着く。

時計を見れば、小椋君との約束した時間の二十分前。

時間に厳しい小椋君のことだから、既に工場に着いているはずだ。

「先方がかなり忙しくて打ち合わせは一時間以内で完了って言われてるから。それほど遅くならないと思うけど、もしもお腹がすいたら翔平君が大好きなファミレスのハンバーグを先に食べていてもいいよ」

運転席を横目に、私は明るくそう言った。

すると、ちょうど信号待ちで車を停めた翔平君が体を私に向けて口元を上げた。



子どもの頃から見慣れた柔らかい視線が私に向けられて、たったそれだけのことで車内の空気が一気に緩んでいく。

とくに緊張感が漂っていたわけではないけれど、仕草ひとつでこの場の雰囲気を変えてしまう、というよりも私の感情を上下させることができる翔平君は、すごい。

『惚れたら負け』

の意味を体感しつつ、その整った顔を間近にして、心は震えた。

「萌」

ほんの少しくぐもった声に、ぴくりと心臓が跳ねたような気がした。

「萌は、エビフライだったな。いつも俺の皿にあるエビフライを横取りしてはおいしそうに食べてた」

「へへっ。覚えてた?」


「ああ、口を大きくあけて、頬張ってはタルタルソースを口の回りにつけてたぞ」

「そ、そんなことないよ。母さんが食事の仕方には厳しかったから、ちゃんと綺麗に食べてたはず」

「ああ、おばさんはたしかに食事の仕方には厳しかったな。俺も箸使いがなってないって何度も叱られて矯正されたな。まあ、今ではそれを感謝してるんだけどな」

思い返すようにつぶやくと、ゆっくりと左手を私に伸ばしてきた。