「今日の会社はそれほど堅苦しい会社じゃないし、無茶なことは言ってこないから安心しろ。逆に、俺が納期やなんかで言う無理をいつもどうにか引き受けてくれるんだ」
翔平君の優しい声が、車内に響く。
大手の印刷会社だけに、翔平君の事務所とのつながりももちろんあり、翔平君自身、顔を出すこともあるらしい。
ふと運転席を見れば、何かを思い出したのか笑みを浮かべている翔平君の横顔があった。
昨夜、というよりも明け方近くまで双方の親と一緒に飲んだあと、私の寝室でふたり並んで少しの睡眠と慌ただしい朝食を終えたあと家を出た。
ふたり、ベッドで並んで寝たとはいっても両親も別の部屋で眠っていることが気になるのか翔平君が私になにやらいろいろ。
そんなことをすることはなかった。
というか、ふたりとも疲れていてベッドに入った途端すぐに眠りに落ちてしまった。
そして今、電車で行くからいいという私の言葉を強引に無視し、翔平君の自宅に寄って車で送ってもらっている。
寝不足の翔平君に運転を頼むのは申し訳ないし、帰り道はひとりで運転することになる。
事故をおこさないか心配で仕事にならないと簡単に予想できる。
だからひとりで電車で行くと何度も言ったのに、聞く耳を持たず。
「じゃ、近くで待ってるから帰りも一緒に乗って帰ればいいだろ」
思いがけない答えが返ってきてびっくしたけれど、帰りも一緒だと思えばやはり嬉しい。
ほんの少しだけ考えるふりをして、「待たせるなんて申しわけないし、ひとりで帰れるよ」なんて言いながらも結局は、近くににあるファミレスで待っていてくれることに頷いた。
翔平君と思いを寄せ合って初めての週末だし、夕べは一緒にいたといっても双方の両親も交えての宴会だった。
できるだけ一緒にいたいと願うのは女の子としては当然の想いだろう。
女の子という年齢でもないし、翔平君にしても三十代半ばだ。
少しでも長く一緒にいたいなんて感情、幼すぎるものなのかもしれない。
けれど、私にとってはようやく実った初恋だから、弾む気持ちを抑えることなんてできないし、存分に楽しみたい。
こうして車内という狭い空間にふたりきりという状況だって、わくわくしている。

