第四章



翌朝、約束した通り翔平君とふたりで駅前のカフェでモーニングを食べた。

明け方には雨もあがり、傘をささなくてもいいとはいっても師走の朝は寒い。

凍っている歩道を歩くのは大変で、何度も転びそうになってしまった。

それを見かねた翔平君が腕を貸してくれて、私はその腕に両手を絡ませながら歩いた。

カフェまでたったの五分。

もう少しこうして歩きたいと思いながらの朝はとても幸せな時間だった。

そして、出勤前の慌ただしい中でベーグルを食べたあと、職場へ向かった。

同じ沿線に職場があるのも嬉しくて、混み合う車内も今日は翔平君に寄り添える絶好の機会とばかりに思う存分くっついていた。

すでに事務所に着いた今も、そのときに触れていた翔平君の温かさが私の体に残っているような気がして頬は緩みっぱなしだ。

「白石、顔が変だぞ」

「は?」

いつも以上に顔がおかしい。さっきから緩みっぱなしで見ていて気持ち悪い」

「気持ち悪いなんて女性に言う言葉じゃないでしょ。同期といえども礼儀知らずは嫌われるよ」

「同期以前に小学校からの腐れ縁だろ? 別に俺が何を言おうがどうってことないくせに」

「そうだね。たしかにそうだった」

同期の小椋くんの言葉に、私は小さく笑った。

普段と何も変わらない金曜日の午前中だけど、私は普段とは違う軽やかな気持ちでパソコンに向かっていた。

翔平君の特別になれたことで、私の日常すべてが輝いているようだ。

今日中にあげなければならない企画書だって、軽やかに進めて……いければいいけれど、こればかりはまだまだ格闘中だ。