『詩織!詩織!』


重い体を必死に動かして、俺は叫び続けた。


時計の針は8を指していて、もうとっくに家に帰ってきているはずの詩織は、家にはいなかった。


“明日、公園にきて。熱が治ってたらね。”


俺が…熱を治さないから…。

俺が…ちゃんと治ってないって言わなかったから…。


どんなに後悔しても意味などないのに。


眩む視界の中、走ってくる詩織の姿が見えた。


泣きじゃくりながら、必死に何かを叫んでいる。


詩織の後ろから変な男が走ってきていた。


気がつけば走っていて、泣きじゃくる詩織を抱きとめる。


『詩織…。』


俺が詩織を抱きとめたのと同時に、後ろから追いかけてきていた男が警察の人に捕まる。


『…詩織?』


もう一度詩織を呼ぶが、返答はない。


震える体。怯えたような表情。


俺の中に、怒りと後悔の念が生まれていた。


『ごめん…。俺のせいで…。』


溢れてくる涙は止まることなく流れて、意識がもうろうとする中で、詩織の怯えた顔だけが目に焼き付いた。


ごめん…。俺のせいで…。ごめん…


そしてその日を境に、俺はその日の出来事、そして詩織のことも全て記憶から抜け落ちてしまった。