真実の愛のカケラ

「知らなかった。
祖父さんにあんな過去があったとは」


「私も。
あんな会長の気持ち初めて知ったよ…」


アパートまで拓哉に送ってもらっていた。
目の端では外灯がちらちらと通りすぎていく。
その車の中は会話が弾むような場ではなかった。


会長の話は私たちをとても複雑な思いにさせたから。


あの広間で会長が話してくれたのは、今から数十年前、会長がまだ10代だった頃の話。


栄えていたその商人の町を、当時の能見家は圧倒的な力で治めていた。
若い会長が少し歩けば、皆が頭を下げるほどの力。


しかしそれは敬っていたという訳ではなく、会長の父親が能見家に仇なす者が現れないように様々な制限を設けていたことが理由。
商人達にとって能見家に目をつけられることは、そこで二度と商売ができないことを意味していた。


そんなことを知らない会長はある日、いつものように町に出て、人々が端に避ける道の真ん中を歩いて、昼食の為に行き着いたのはボロボロの店。
自分が少しでも労いの言葉をかけてやれば、大袈裟な程感謝するだろうと考えて。
今思うと、感謝されたかったというよりも、ただ見下したかっただけだという。


だが会長の企みは呆気なく破られた。
店に入った瞬間に同じ年齢くらいの女にポイとつまみ出された。
その女は尻餅をついた会長に怒鳴り付けたという。
ここはアンタが来るような所じゃない!
アンタが苦しめたせいで、金を持たない人たちの為の店よ!と。