「ちょ、ちょっと待って!
本気で言ってる?」


「うん」


「嘘でしょ…」


玄関の前で柚希は渋っていた。


東京に戻ることを決めた柚希は、荷物を取ってくると言って一旦家の中に入っていった。
数分も経たずに玄関の開く音が聞こえたため不思議に思っていたら、そこにいたのは柚希じゃなくてその母親だった。


「あの…」


どう声をかけようか、そう迷ったのも束の間。
さすがは柚希の母親だった。


「ねぇ、もしかして柚希の彼氏?
さっきお父さんが、柚希が男と出掛けたって言ってたのよー。

ねぇ、彼氏さんでしょ?」


ぐいぐいと詰め寄られる。
なんというか、父親もなかなかだったが母親も負けてない…。


「うわ!
ちょっとお母さん何やってんの!
もう、いいから家に戻ってて」


急いで戻ってきた柚希は俺から母親を遠ざけて、家に戻すように背中を押す。


「気になるじゃないのぉ」


「いいからはやく!」


母親は何度もこちらを振り返りながら渋々家のなかに押し込まれていく。


「そんなところじゃ寒いから中に入って!
お茶淹れてくるから!」


と言い残して。